鋳物屋の花形業務である注湯士・注湯作業って実際どうなの?

鋳物を作る上で、とても大切であると同時に、大きな危険が伴う注湯作業。

本記事では注湯士として、実際に注湯作業を経験した人間が、その大変さ、やりがいを語ります。

注:本記事で述べる注湯作業は、人の手で行う作業です。ロボットで自動注湯作業を行っている、鋳造会社もあります

目次

鋳物屋の注湯作業はとても大きな危険が伴う

鋳物って何?ってよく知らない人でも、ドロドロに溶けた金属を容器に流し込んでいる場面を見たことありませんか?

溶けた金属を流し込む仕事、それが溶解・注湯作業です。

ドロドロに溶けた金属を扱うんですから、かなりの危険が伴うのは、簡単に想像できますよね?私が働いている鋳物工場では、1500°C前後の溶けた金属を扱っています。

1500°Cの液体が体に触れたら、どうなると思います?大やけどです。

実際に私が作業していた時のこと。一緒に作業していた人が、誤って足にドロドロに溶けた金属を、かけてしまいました。どうなったと思いますか?

ズボンが激しく燃え上がり、足に大やけどを負ってしまいました。

すぐに救急車を呼び、病院に運ばれ、集中治療室に入りました。幸いなことに、皮膚移植をして足はきれいに治りましたが、一歩間違えればもっと大惨事になっていました。

注湯作業の流れ

注湯作業は、まず金属を溶かすことから始めます。

電気炉の中に溶かしたい金属(スクラップや不良となった製品など)を入れる。

溶けた金属に浮き上がってきた、金属以外の不純物(木やゴミなど)を取鍋(とりべ)と呼ばれる、ひしゃくのようなもので取り除く。

取鍋で造型作業で作った型に流し込む。

造型作業がどういった作業なのか気になる方は、

鋳造会社の造型作業ってどんな様子?実際の作業経験から語る

をご覧ください。

以上が作業の一連の動きになります。こうしてみると単純作業に見えるんですが、一歩間違えると大事故になるので、とても神経を使います。それに、経験が必要となる作業です。

単純なようで難しい注湯作業

溶けた金属を、ただ型に流し込む。安全にさえ注意すれば誰でもすぐできる。そう思われる方もいるかもしれませんが、実は経験がものをいう難しい仕事です。

温度管理が難しい

注湯作業においては、溶けた金属の温度管理が重要です。

温度が低いと、型に流し込んだときに途中で固まってしまい、しっかりとした形になりません。不良品のできあがりです。

逆に温度が高すぎると、型を溶かしてしまい、これまたしっかりとした形になりません。不良品のできあがりです。

当然ですが、溶けた金属は電気炉から出したとき、徐々に温度が低下していきます。温度が低下するスピードは、溶かした金属の量によって変わってきます。

量が多ければ温度の低下は遅くなりますし、少なければ早くなります。この、量によって変わる温度の低下具合を、判断するのがとても難しいです。

もちろん温度計を使って計りますが、常に計ってばかりでは型に金属を流し込むことができません。温度を測定している時も、常に温度は低下していきます。

温度管理を的確に行うには、経験を積むしかありません。

溶けた金属を流し込むスピードが難しい

先ほどの温度管理とつながるのですが、型に金属を流し込むスピードの調整が難しいです。

流し込むのに時間を掛けすぎると温度が下がりすぎて、途中で固まってしまいます。型にまんべんなく金属が行き届かなくなり、不良品のできあがり。逆に早すぎても、注ぎ口からこぼれてしまいます。

注湯のコツは「素早く静かに」とよく言われます。

また、やっかいなことに型の形状も、考慮しなければなりません。太くて直線的な形の場合と、細く曲がりくねった形では、流れ具合が変わってきます。

形によって、金属を流し込むスピードを調整しなければなりません。どの程度のスピードで流し込めば良いかは、経験がものを言います。

何回も経験していると、この形状のときのスピードはこれ位だな、と分かってくるのです。

溶解・注湯作業のやりがい

注湯作業は、鋳物を作る上で代表的な作業であり、花形作業と言えます。世間のイメージは注湯作業=鋳物、というイメージでしょう。

やりがいは、何といっても鋳物でもっとも重要な作業を担っている、という満足感です。良い鋳物ができあがるかどうかには、色々な要素があります。その中で注湯作業は、1番か2番に位置するくらい重要な作業です。

ちなみに、注湯作業とトップの座を争っている作業は、方案業務です。

方案業務とは簡単に言ってしまえば、うまく溶けた金属が流れ、固まるように型の仕組みを考える業務です。

溶解・注湯作業に向いている人はどんな人?

溶解・注湯作業に向いている人はズバリ、慌てず、焦らず、スピードを意識できる人。

この作業で一番気を付ける点は何か?それは安全第一で作業することです。

少しの油断が、命取りになる仕事です。私の勤務先でも、実際に大やけどを負うという事故が起きています。とにかく、安全意識を高く持ち、慌てず焦らず作業することが重要です。

しかし、慌てない、焦らない、といってゆっくり作業していては、良い鋳物は作れません。先ほども述べたように、注湯作業は金属を流し込むスピードが重要です。

ですから、高い安全意識を持ちつつ、スピードを意識して作業する必要があります。

おっちょこちょいの人や凡ミスが多い人、早さを意識することが苦手な人には、向かない仕事です。

やるなら相応の覚悟を持とう

注湯作業はとにかく危険な仕事です。決して楽な仕事ではありません。体力的にも、しんどいです。

事実、私は注湯部門から他の部署への異動を命じられたときは、ラッキー、と思ってしまいました。

でも、この仕事に楽しさ、やりがいを感じて、業務を行っている従業員もいるのは確かです。

もし、鋳造会社の注湯士の求人を見つけ、応募しようとした場合。環境的にも肉体的にも厳しいことを覚悟してください。

未経験で入社して、いきなり注湯作業をやらされることは、まずないと思いますが。

始めは造型作業なり、型から鋳物を取り出す「バラシ」などの作業から入るはずです。そして、鋳物とはどういうものなのか?どのように作られるのか?を勉強します。

きつい、きけん、きたない、と見事な3K職場といえる注湯作業。でも、経験を積んで職人技を極めることができる、魅力的な仕事です。

これからはAIの時代、ロボットの時代と言われています。2019年現在も、ロボットが自動で注湯作業を行っている会社もあります。しかし、まだまだ人の手で行われている会社も、多くあります。

私の主観ですが、今後10年~20年は完全にロボットがやる時代は、来ないでしょう。

職人の技術は偉大だからです。仮に職人に負けないような、高性能な注湯ロボットが開発されたとします。でも、コスト面から普及するのは難しいのでは?と考えています。

世の中に必要な多くのものを生み出している鋳造会社。鋳造会社の花形業務である、注湯作業。

経験がものをいう職人技を身につけたい、と考えているのでしたらチャレンジしてみる価値は十分ありますよ。

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